水戸地方裁判所 昭和49年(ワ)288号 判決 1976年10月20日
原告 茨城三菱電機商品販売株式会社
右代表者代表取締役 大脇琢治
右訴訟代理人弁護士 横山隆徳
被告 野沢やす
右訴訟代理人弁護士 倉本英雄
被告 三村清一
右訴訟代理人弁護士 天野等
主文
被告三村清一は原告に対し金二〇〇万円およびこれに対する昭和四九年九月一四日より完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。
原告のその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用中原告と被告野沢やすとの間に生じた分は原告の負担とし、原告と被告三村清一との間に生じた分はこれを六分し、その五を原告の、その余を同被告の負担とする。
この判決は原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、「被告らは連帯して原告に対し金一、二七三万三、九七五円およびこれに対する昭和四九年九月一四日より完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、
一、原告は電機製品の卸販売を業とする会社であるところ、電機製品の販売を業とする大眞電機商会こと眞柄征夫との間で昭和四七年一〇月三〇日継続的売買取引契約を締結し、同日右契約に基づく同人の債務につき被告両名は連帯保証することを約諾した。
二、原告は右眞柄と同日から取引を開始し、昭和四八年五月二一日より同年九月二九日まで合計金二、一二九万二、一八五円相当の電機製品を売渡したが、同人は金八五五万八、二一〇円を支払ったのみで、残代金一、二七三万三、九七五円の支払をしない。
なお、取引代金は毎月二〇日締切り、締切后三ヵ月以内に支払う約であった。
三、よって、原告は被告らに対し右残代金およびこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四九年九月一四日より完済まで商法所定年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
と述べ、被告三村の抗弁は争うと述べた。
被告野沢訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、
一、請求原因一の事実中大眞電機商会こと眞柄征夫が電機製品の販売を業とするものであることは認めるが、被告野沢が連帯保証を約諾したとの点は否認する。その余の事実は不知。
二、同二の事実は不知。
三、同三の主張は争う。
と述べ、
被告三村訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、
一、請求原因一の事実中原告と大眞電機商会こと眞柄征夫の業務の点は認めるが、被告三村が連帯保証を約諾したとの点は否認する。その余の事実は不知。
二、同二の事実は認める。
三、同三の主張は争う。
と述べ、仮定抗弁として、
かりに、被告三村が原告主張の如く連帯保証することを約諾したとしても、継続的売買取引契約についての保証契約において保証される取引の範囲、保証すべき金額については限度額が定められていない場合にも無限に責任が及ぶと解すべきではなく、当該保証契約のなされた事情、保証される取引の実情などによって自ら合理的な限度があるべきである。本件契約においては原告は右眞柄に対し前月二一日より当月二〇日までの間に送品した商品の代金を毎月請求し、同人がこれを毎月末日までに全額現金で原告に支払う特約があり、本件保証契約にあたり売主たる原告から保証人に対し、原告、眞柄間の継続的売買契約の内容特に販売予定数量等について全く何の説明もしていない事情を考えれば、本件保証契約の保証金額は現金支払がなされなかった最初の一ヵ月間の債務額に限定されるべきである。
と述べた。
≪証拠関係省略≫
理由
一、原告の被告野沢に対する請求について、
≪証拠省略≫によれば、原告は大眞電機商会こと眞柄征夫との間で昭和四七年一〇月三〇日継続的売買取引契約を締結したことが認められ、右認定に反する証拠はない。原告は被告野沢が前同日右契約に基づく右眞柄の債務につき連帯保証することを約諾したと主張するが、本件全証拠によってもこれを肯認することができない。もっとも、被告野沢名下の印影が同被告の印章によって顕出されたものであることにつき争いのない前出甲第一号証(継続的売買取引契約書)には、同被告が昭和四七年一〇月三〇日原告と右眞柄との間の継続的売買契約に基づく同人の債務につき連帯保証する旨の記載が存するけれども、≪証拠省略≫を総合すれば、被告野沢の娘で右眞柄征夫の妻である訴外眞柄よしのが同被告の承諾を得ず、たまたま預り保管中の同被告の印章を使用して甲第一号証の連帯保証人欄に同被告の住所氏名を記載した上その名下に押印したことが認められるから、右甲第一号証をもって原告の前記主張を認めうべき証拠とすることはできないし、また、≪証拠省略≫中には、被告野沢は昭和四九年二月一二日原告会社の社員に対し娘(眞柄よしの)可愛いさのために右眞柄征夫のために原告に対し連帯保証したと述べた旨の供述部分が存するが、前記認定事実に徴すればたやすく措信し難いところである。さらに、≪証拠省略≫には、「右眞柄征夫の原告に対する負債一、二八八万一、五七五円についての被告野沢の原告に対する連帯保証債務の支払方法について同被告は現在家族等と検討中であるので昭和四九年二月二二日まで待って貰いたい。」旨の記載が存するけれども、≪証拠省略≫によれば、右文言は同被告において原告に対する連帯保証債務を承認したものとはたやすく認め難いところであるので、≪証拠省略≫もまた原告の前記主張を認めうべき証拠とすることはできない。
それ故、爾余の判断をまつまでもなく、原告の被告野沢に対する請求はその理由がない。
二、原告の被告三村に対する請求について
≪証拠省略≫によれば、電機製品卸売業者である原告は電機製品販売業者である右眞柄征夫との間で昭和四七年一〇月三〇日継続的売買取引契約を締結し、同日右契約に基づく同人の債務につき同被告が連帯保証することを約諾したことを認めることができ(右眞柄の業務の点は当事者間に争いがない)、右認定を覆しうべき証拠はない。
しかして、請求原因二の事実は当事者間に争いがない。
そこで、被告三村の抗弁について判断するに、いわゆる継続的保証契約において保証の限度額や期間の定めのない場合には保証人の責任は主たる債務者の負担した債務の全額に及ぶものではなく、保証契約当時の具体的事情や取引慣行を十分に考慮し、さらに信義則に従ってその範囲を合理的な限度に制限し、保証人が不当に苛酷な責任を負わされることのないようにするのが相当である。
ところで、≪証拠省略≫を総合すれば、被告三村は前記眞柄征夫とは親類縁者の関係になく、同被告が昭和四四年理容業を開店するにあたりクーラーの取付を近所の電気店に依頼したところ、たまたま右眞柄が店員としてクーラーの取付工事をなしたことから知り合い、爾来同人は同被告の顧客として来るようになったこと、両名の間には右以外に何等特別の関係即ち金銭貸借や保証その他営業上の相互援助などの関係はなく、単なる友人にすぎなかったこと、右眞柄はある日突然営業中に同被告方を訪れ、「原告との取引につき妻方の保証人一人のほかにもう一人保証人が必要なので是非名前だけ保証人になってくれ。」と言うので、同被告は保証をしてやる程の間柄でもなかったため一応右申込を承諾することを渋ったが、もう一人いればすぐ取引ができるのだと強く保証を求められたので、営業中のことでもあり、仕方なく深く考えもせず、世上一般の身元保証的な考えで原告と右眞柄との間の取引につき同人のために保証することを承諾したものであり、特段財産もなく一介の理容業者にすぎない同被告としては将来多額の保証責任を負担することになることは全然予想もしておらなかったこと、右眞柄は右保証依頼にあたり同被告に対し本件継続的売買取引契約および本件保証契約の内容について全く説明をせず、原告においてもまた同様であって、もしも、同被告が右眞柄または原告から右説明を受け、将来主たる債務者が負担することあるべき債務が多額にのぼり、これについて保証人としての責任を負うに至ることを知ったならば当然本件保証契約の締結を拒否したであろうこと、本件保証契約には保証の限度額や期間の定めがないこと、原告と右眞柄との間の売買取引額は取引開始当時である昭和四七年一一月から昭和四八年三月当時においてはおおむね一ヵ月金一〇〇万円台であったが、同年四月ごろからはおおむね一ヵ月金四〇〇万円台となり、同年九月ごろには一ヵ月金六〇〇万円台となったこと、しかるところ、右眞柄の代金支払状況は昭和四八年六月ごろまでは一応順調であったが、それ以后は次第に悪化し、同年九月三〇日に不渡手形を出して遂に倒産したこと、その時点での右眞柄の原告に対する債務額は金一、二〇〇万円を越えていたこと、原告は被告三村の資産状況を調査もせず、右取引額の増大を同被告に通知もしていないこと、以上の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、被告三村が原告に対して負担すべき保証債務は金二〇〇万円をもって相当であると認めるべきである。
三、以上の次第で、原告の被告野沢に対する請求は失当として棄却を免れず、また、被告三村に対する請求は金二〇〇万円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日であることの記録上明らかな昭和四九年九月一四日より完済まで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容すべきも、その余は失当として棄却を免れない。
よって、民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文、一九六条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 太田昭雄)